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好きな映画について語る①「ユー・ガット・メール」

クリスマス前のニューヨークってなんか素敵じゃないですか笑?アメリカの中でもニューヨークは色々な宗教を信仰してる人が住んでるので、クリスマス前は特に異様な雰囲気らしいです。ちなみにニューヨーカーの間ではこの時期の挨拶はMerry ChristmasじゃなくてHappy Holidaysとかいうそう。いわゆるポリティカルコレクトネスってやつ。

ただいくら思考は言語に規定されるとはいえ、ポリコレを過度に推進するのはある程度の危険性も伴います。潜在的な差別を逆に浮かび上がらせてしまったり、空回りすることによって逆に反発を掻き立ててしまったり。。。でもニューヨークの場合はあの狭い地域にLGBT含め色々な思想を持ったものが混在しているので、こうしたポリコレもすんなり受け入れられるのでしょう。

様々な価値観を受容することは創造性につながります。価値観が相互にぶつかり合うことによって、その摩擦を推進力として芸術が発展する。そうして昇華した文化の一つにニューヨークのクリスマスもあるんじゃないでしょうか(ちょっと美談過ぎますか?)


さすが世界の首都としての自負を感じます。

 

そんなニューヨークを舞台にした映画の中で、私が最も好きな映画に「ユーガットメール」があります。映画自体の知名度はそんなにある気はしませんが、実は私この映画50回くらい見てるんです。6年前なので写真は残ってませんがロケ地も見て回ってます。(作中の設定同様ロケ地もアッパーウエストサイドに集中している)。


簡単にあらすじを説明すると、舞台は1990年代のニューヨーク。主人公であるキャサリン(メグライアン)は当時まだ黎明期であったインターネットを使ってNY152という正体不明の男性とチャットで連絡を取り始めます。キャサリンはニューヨークで小さな本屋を経営しているのですが、やがてその近くにFOXブックストアという大型本屋が進出してきて客を奪われてしまいます。廃業の危機にまで追いやられてしまいまうキャサリンですが、そんな時に彼女はNY152にチャットを通して支えてもらいます。そのうちにキャサリンは次第にNY152という存在に惹かれていきますが、なんとそのNY152の正体はFOXブックストアの御曹司ジョーフォックスだったのでした。お互い素性を明かさないという条件の下チャットのやりとりをしていたので気づきませんが、2人の関係性はネットを通してより密になっていきます。現実世界ではいがみつつも、ネットの世界では顔の見えない友達として惹かれていく。そんな2人が現実世界でお互いを認識しあったらどうなるのかが最大の見どころです。


映画のジャンルとしてはロマンチックコメディで、全体的にコメディ要素が散りばめられたラブストーリーです。内容としても決してシリアスなものではなく、ややご都合的主義的な感じでポップに進行します。ジョーフォックスとキャスリーンケリーの2人のキャラクター造形も面白くて、特にジョーフォックスは現実の自分とネットでの自分の違いに悩むわけですが(そう考えるとネットの二重人格的な話と通ずるかも)、何事も現状維持を望むキャスリーンケリーに対してネットでは親密、現実では粗悪というこの2人の好対称な関係性がストーリーに推進力を与えています。

 

 

実はこの作品、同じ監督で同じ出演陣の「めぐり逢えたら」のリメイクなんです。さらにその作品は1940年の”Shop around the coner(桃色の店)”のリメイクということで、本作はリメイクのリメイクというわけですね。ちなみに「桃色の店」では手段がEメールに代わって文通でした。(時代感じる笑)

 

この映画が制作されたのはインターネット黎明期のサイバー空間がまだないに等しい時代。日常生活の中に入り込んだインターネットの異質性が際立つ時代でもあります。今ではネットもスマホも当たり前となりましたが、こうした常にネットに繋がってるという感覚はつい最近もたらされたものです。中には現実世界よりもネットの世界に生きている人も少なくないわけですが、そう考えるとこの映画で描かれてるニューヨークの日常は現代と全く似て非なるものですよね。つまりこの映画はあくまでネットが異質だったから1990年代だったからこそ成り立つストーリーなわけです。


この当時の人々にはネットというものを異質だと捉える感覚が残ってたわけで、そうした意味でこの時代に戻ることはできないはずです。キャサリンがネットで文通する傍ら、同棲相手のフランクがタイプライターを購入しているのは、そうした対比として時代に取り残される人のメタファーにもなっているんでしょう。(今書いてて思いましたが、作中に出てくるジェインオースティンの「高慢と偏見」も2人のメタファーになってるのかな。)


ニューヨーカーにとっては9.11前という意味でも戻ることのできない時代

 

ストーリーだけではなく、サウンドトラックも結構おすすめで例えば冒頭の『Dream』なんかは、ネットのチャット相手とは切り離された形で始まった新しい1日が、現実においても両者はすごい近いところで暮らしているというテーマを象徴するシーンになってます。

 

オリジナルの音楽は少なくて、どれも有名な曲の引用ですが、ストーリーの雰囲気と見事にマッチしています。

 

ネタバレは避けますが、ハッピーエンドながらも観客を軽く裏切るような形で終わらせたのも、ノーラエフロン監督らしいエンディングだと思います。ごくありふれたストーリーながら観客を最後まで惹きつけるあたり、高齢になっても果敢に映画を制作し続ける監督の力量に脱帽です。

 

好きな英語フレーズ

どうやらブログって英語系の内容だとアクセスが伸びる傾向にあるみたいです笑。ということで、英文科の学生としてここでちょっと偉そうに英語について語ってみます。本屋が重要なテーマにもなっているので、映画にはたびたび詩的な表現が登場します(スタバの注文シーンとかそんなありふれたところは扱いません笑)

例えば

「You are what you read.」(読書こそがあなたの人格を形成する。)

だったり、

When you read a book as a child, it becomes a part of your identity in a way that no other reading in your whole life does(人生の中でも幼少期の読んだ本っていうのが、あなたの自身のアイデンテティを形成する血肉になるの)

とか、

“People are always telling you that change a good thing. But all they're really saying is that something you didn't want to happen at all... has happened.”(人は変化をいいものとして受け入れるけど、それって起こってほしくないことが起こってしまったことを正当化したいだけなのよね)

 

中でも最も好きなフレーズがあって(ちょっと長いんですが)、

Sometimes I wonder about my life. I lead a small life. Well, valuable, but small. And sometimes I wonder, do I do it because I like it, or because I haven't been brave? So much of what I see reminds me of something I read in a book, when shouldn't it be the other way around? I don't really want an answer. I just want to send this cosmic question out into the void. So goodnight, dear void.

ときどき人生について迷うことがあるわ。ほら私は小さな生活を送ってるでしょ。もちろん小さいけどそれはそれでとても価値がある生活。でもね、私は果たして好きでそんな生活を送ってるのか、それともこれまで勇気を振り絞れなかった帰結としてなのか。。。現実世界に起こることは本で読んだことを思い出させるけど、もし実際がそうではなかったとしたら。。。別に答えが欲しくはないの。ただこの深淵な疑問を宇宙に放ちたいだけ。おやすみ、深淵な宇宙よ。

 

なかなかこの辺りの訳し方は難しいというか、最後の部分が特に難しくて意訳を施しちゃったんですけど、cosmic question out into the voidっていう表現、初めて聞いた時にすごい英語的な言い回しだなと思いました。上では意訳しましたが、直訳すると「宇宙のように壮大な悩みを虚空の中に解き放つ」って意味合いになるじゃないですか。シェイクスピアとかどこかの引用なんでしょうか。分かりませんけど、結構英語はそういう引用表現多いですからね(一昔前のニューヨークタイムズはシェイクスピアくらい読んでおかないと理解できなかったらしい)

 

よく言われることですが、根本的に日本人と欧米人では空間に対する扱い方が異なります。大きなものを小さなものの中に収める無限の照応。この辺りが果たして西欧の概念なのか、日本的な空間の捉え方なのか。。映画の枠を超えて個人的にちょっと深掘りしてみたいところです。

 

最後に

好きな映画シリーズ第一弾「ユーガットメール」。なかなかいい作品なんですけど、あんまり日本だと名前聞かないし、過小評価されてる向きもあるのでこうしてブログを書いてみました。

最近はなんかこういう作品ってあまりないですよね。ドロドロしないラブコメ映画。あまりないっていうか話題になってないから知らないだけなんでしょうけど。現状ではamazonとかYoutubeで有料で購入するしかないので決して敷板は低くないですが、リスニング教材としても最適なので、日本でも見る人が増えてくれればいいなあと切に願っています。

 

  • 自己紹介

Yutaro

慶應義塾大学文学部4年 /TOEIC960 / Python歴2年(独学)、PHP,Javascript歴5ヶ月(業務)/ 応用情報技術者 /(⬇︎ホームリンク)

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