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好きな映画について語る②「キャプテンフィリップス」

突然ですが「自分って変人なんだろうか」って疑問抱いたことありますか??笑。現代だとこうした悩みに直面する人って少なくないと思うんですけど、いま我々が当たり前のものと享受してる世界はあくまで自分の属する社会集団が強要するものでしかないと気づいたのは、構造主義が生み出されたここ40年の出来事です。

例えばどこかで戦争があったとして、まず我々はどちらか一方に梃入れするのではなく、お互い何か理由があるだろうと考えるはずです。アメリカでいえば60年前に起きたベトナム戦争ではベトナム側に想いを馳せるアメリカ人はほとんどいなかったのにも関わらず、構造主義がイデオロギーとなった20年前の対テロ戦争では多くのアメリカ知識人がアルカイダを生み出してしまったアメリカ側の過失に焦点を当てたというように。ある事実がそこにあるとして、まずは全ての見方を等確実性の下で検討する。現代に生きる我々はこうした考え方を心がける必要性があります。

 

キャプテンフィリップス

今回紹介するキャプテンフィリップスという映画は、そうした一つの出来事に対するあらゆる見方を教えてくれる作品です。アメリカ海軍シールズの作戦シーンがクライマックスですのでラストはアメリカ寄りの描き方をしていますが、それでもちゃんとソマリア海軍側にも焦点を当ててたのは非常に好感を持てました。(ハリウッド映画がアメリカ軍をかっこよく描くのは単純に愛国心を煽るためだけではなく、次回作でもちゃんとアメリカ軍の協力を得るためのリップサービスでもあるんです。)

簡単にあらすじを説明すると、舞台はソマリア沖の治安危険地帯。フィリップス船長が操縦するアメリカのコンテナ船はケニアに向かって航行していました。そこにムセ率いるソマリアの海賊が二日に渡る攻防の末、船に乗り込み船長を人質に取ってしまいます。他の船員は機械室に隠れ、そこから船長奪還に向けて応戦しますが、海賊は銃を武器に立てこもります。無事、船員側は海賊を制圧することに成功しましたが、今度は海賊は救命ボートで帰る際に船長を再び人質として奪い、一緒に逃げてしまいます。

これはマースクアラバマ号乗っ取り事件と呼ばれる実際の話をモチーフにした映画で、本国でもVery Acurate(かなり正確)という評価を下されているので、ほぼ実話と捉えて良いでしょう。本作はかなり高く評価され、アカデミー賞にもノミネートされましたが残念ながら受賞には至りませんでした。

第86回アカデミー賞OP。まだこの頃はエレンも元気だった(1:38~からキャプテンフィリップス)

ほとんど全てのシーンが海上で行われますが、それでも2時間中弛みさせずに観客を飽きさせないのはすごいと思います。中でもラスト10分のアメリカ海軍対ソマリア海賊のシーンは、数あるトムハンクスのシーンの中でも最も名演と言われてる部分でもあります。

 

アメリカの正義?

今回の映画でもそうですが、現代に生きる我々は無条件にアメリカのやってることは正しくて、ソマリアの海賊が悪者というような捉え方をしがちです。もちろん相対的に見れば映画の中でソマリア海賊が行ってることは完全なる悪でしょう。しかしながら海賊に至るまでのプロセスを踏まえた上で見てみるとソマリア海賊に全ての責任を押し付けていいのでしょうか。

例えば映画のの中でムセは村のボスに脅されて仕方なしに海賊行為に出ます。もし海賊行為に出なかったら、殺されてたかもしれない。そういった環境下にいるのです。その後航海に出たムセはコンテナ船を見つけますが、あくまで海賊側の目的は身代金であり殺人を犯すことではないので決して人質は殺しません。

もちろん、ソマリアの海賊行為は国際法違反である以前に人道的な観点から許されないものでもあります。しかしながら先進諸国に生きる我々にとってこの広く共有されている価値観念というのは、あくまで我々が奉授してるものに過ぎず、同時にそれはアメリカにとって都合が良いことでしかないということは認識しなければいけません。では上で述べたようなソマリアの環境下における正義とはなんでしょう。アメリカの人道的な考え方がソマリアにおける正義なのでしょうか。

 

パクスアメリカーナに生きる我々

我々は現在、パクスアメリカーナと呼ばれるアメリカの絶対的覇権によって正義が保たれてる時代に生きています。つまりこの世の中で平穏に暮らすためには少なからずアメリカの価値観を受け入れざるを得ないわけです。少なくともアメリカと敵対するようなことがあれば、中国のようにある程度自国を支える国力と資源がない限り、対アメリカ戦略に莫大なエネルギーを払わなければいけません。

アメリカの正義は諸刃の剣です。20世紀以降、アメリカは「世界の警察」を自認して世界中に軍隊を派遣しましたが、アメリカのせいで混乱した地域はアフリカから中東にかけてたくさんあります。世界は地政学的に言えば、それぞれの国が歯車となってお互いに噛み合って動いているようなものです。その地において培われた価値観や対外関係、こうしたものは簡単には変革し得ない厚みを持っています。そこにアメリカが正義を振りかざして介入してくると、途端にその歯車は狂い始めます。

アメリカの正義も所詮アメリカにとって都合の良い正義でしかありません。相対化してみればおかしなところはたくさんあります。そしてこうした時代もやがて終わりを迎えます。パクスロマーナ(ローマ帝国)、パクスモンゴリカ(モンゴル帝国)、パクスブリタニカ(大英帝国)がいずれも終焉を迎えたように。(もちろんアメリカの正義は歴史上見ても最も優れたものであるのには違いありませんが。。。)

映画の最後でキャプテンフィリップスが、海賊3人が殺されてしまったと聞いた後に流した涙は何だったのでしょう。複雑な感情であるのには違いませんが、そこには情が移りつつあった1人の海賊に対する想いもあったはずです。一つの価値観を押し付けるのではなく、全ての可能性を等確実性のもとで検討する。アメリカを中心とした多国籍連合によって再建された政府はあくまで対処療法的なものに過ぎません。もちろん先進諸国の助けがないとソマリアは自立できないでしょう。しかしながら最終的にはソマリア人の手によって自ら国を建国することを目的とすべきで、そこに自身のイデオロギーを強く反映させるのはむしろ控えなければいけないのではないでしょうか。

ちなみにソマリア海賊のムセはその後、アメリカ本国に移送され、アメリカの法律で裁かれました。現在は懲役33年の刑に処され、サウスカロライナの矯正施設で服役中だそうです。

 

  • 自己紹介

Yutaro

慶應義塾大学文学部4年 /TOEIC960 / Python歴2年(独学)、PHP,Javascript歴5ヶ月(業務)/ 応用情報技術者 /(⬇︎ホームリンク)

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