アメリカとは非常に良くできた国である。成立当初から現在に至るまでアジア人含む非常に多様な出自を持つ人々を戦略的にまとめ上げ、さらに建国から3世紀経った今なお、科学、芸術、教育、経済、軍事力、ITの全てにおいて圧倒的なパワーを持って世界を先導している。アメリカ発の文化は世界に向けて24時間体制で発信され続けてるし、地球規模で進行したアメリカナイゼーションの結果、アメリカにおける基準はほとんどの場合そのまま世界基準としても適用させられる。これほどまでに色々な文化を包摂し、さらには地球の反対側に半世紀以上も軍を駐留させてる国家はこれまでに存在しなかったに違いない。
私自身アメリカには6回ほど行っているし、ホームステイという形で実際の生活に馴染んだこともあるが、その度にアメリカンジャスティスなる公平なシステム、チャレンジ精神あふれる国民性、多様性をパワーに変換できる寛容性が保たれている限り、この先も世界の超大国としてアメリカが君臨し続けるのは間違いないと考えている。(中国の伸張により相対的な地位が低下しても)
アメリカというのは先に述べたように、数多くの人種を包摂する多民族国家である。多民族国家はアメリカの他にもイギリスやカナダなどたくさんあるが、アメリカは史上初めて理念の上に建てられた国として異質である(理念の上に打ちたれた国家としてはソ連と同様であるが、ソ連は帝政ロシアに接木されているに過ぎない）
つまりアメリカというのは合衆国憲法という理念に賛同するものたちの集まりでしかないということである。アメリカ人という存在を担保するのは決して言語でも民族でも肌の色でもない。アメリカに対する永続的忠誠である。英語が喋れないコミュニティは少なからず存在しているし、アメリカ国外で生まれても世界の人々は誰でも等しくアメリカ人になる権利を持っている(ニューヨーカーの1/3は国外生まれだという）。
そして先に言及したアメリカの宗教性を強めているのは、大統領選でもたびたび言及されている「神」の存在である。合衆国憲法では神について直接言及されてはいないが、アメリカはもとより宗教的な目的で建設された国家である。建設当初に神といえばそれは限りなくキリストにおける神に近いものであったが、現在、超党派でたびたび言及される「神」の存在はもっと広い意味での神である。(クリントンの敗北宣言でもトランプの勝利宣言でも両方とも神という言葉が登場していた)。それはいわば守護神のような存在で、この神がアメリカはいつの時代も最強の国家であるだろうという信仰を補強している。アメリカが対外的な危機に面した時に見せるアメリカ人の結束力もここに支えられているといって良いだろう。
しかしこうした半ば信仰心のようなもので結び付けてるが故に、そこに反発しようとする遠心力も存在している。それはリンカーンが提出した件の問題である。この問題はキング牧師の公民権運動をへてオバマの大統領就任という形で一帰結を迎えたかのようにみた。しかしながらトランプ大統領は再びこの問題を掘り起こし、衆目にその矛盾を晒すことで不満を呼び起こし、その不満を自分を支持する勢力へと転化した(この技術はトランプが長年MCを務めた番組で鍛え上げられたものでもある）。
確かにアメリカというのは理念の上に打ち立てられた国家であるが、その理念によって個人の生活を純化できるほどに人間はうまくできてはいない。こうした独立や国家分断という問題は多民族国家というアメリカの性質上、国家の存続に関わる非常に重要な要素である。そこでこうした問題に対処するためにアメリカは一種の洗脳教育に近いものを施している。つまり徹底した愛国心の涵養である。教育に始まり、ことあるたびに歌われる国歌(星条旗)によってアメリカは非常に戦略的に国民をまとめ上げている。この非常に強い遠心力と求心力という絶妙なバランスの上に成り立っているのが現代のアメリカという国である。この二つの対立勢力をもて扱いかねた時に今回のような激しい分断というのがアメリカで起こるのである。逆にいえばこの激しいエネルギーの対立から生じた摩擦がアメリカの突出した文化を生み出したとも言えるのだろう。
多民族であるが故に人工的な国家。それこそがアメリカを象徴するもののであるように思う。そして同時にこの世界で最強の国は旧大陸の負け組によって作られたことも忘れてはならないだろう。しがらみのない場所で頑張ろうとした旧大陸の負け組たちの感情は今なお受け継がれ、それは機会均等に繋がり、今の激烈な競争社会を作っている。
故に私にとってアメリカを象徴するものは宗教性と競争主義の二つではないかと思われるのである。
