一年のGPA1未満、語学再履修組、仮進級という絶望な状況から、文学部の中で最もエグ専とも言われる英米文学専攻に進級し、身を削りながら生きながらえた、この一年間を振り返ってみようと思います。果たして無事3年生に進級できるのか!??

 

 

2年次の指定教科書

 

 

 

慶應義塾文学部英米文学専攻とは

 

慶應義塾大学英米文学専攻は元々は英学塾だった慶應の中でも非常に歴史ある学科です。他大学が国際コミュニケーション学科などいかにも役立ちそうな実学的な名前に変更している中、文学部の牙城として慶應は英米文学専攻の伝統を綿々と受け継いでいきました。かつてはノーベル賞候補者も擁した学科でもあり、世界で6つの大学しか教えてない古代中世英語学を今なお教えてるなどユニークな学科でもあります。(英米のテクストを読み込むというのが専攻の要諦なので、文学だけでなくハリウッド映画から洋楽など幅広く欧米の文化が研究対象です)

 

生徒60名に対して先生は18名ほどで、日本英文学会会長の原田範行先生や元米文学会長の巽孝之名誉教授(兼慶應NY校長)、アメリカ学会会長の宇沢先生やNHKの基礎英語を担当している井上逸兵先生(慶應中等部校長)、慶應ミュージアム機構長の松田先生、三田文学副編集長の大串先生など塾内外で活躍されてる著名な先生方が在籍しておられます。

 

 

 

 

慶應 英米文学専攻の卒業生

これまでの英米の卒業生には水卜ちゃんこと水卜アナや久保純子アナ、森本毅郎アナのほか、シンガーソングライターの竹内まりや、森田鉄也先生、関先生、肘井先生といった受験界の大物講師、アジア女性経済会議(AWEC)の代表でもある槇徳子、オセロ世界チャンピオンの村上健、料理研究家で衆議院議員の前川恵、起業家の谷本 肇(EOY 2005ファイナリスト)、ウルトラマンの監督・脚本家でありバルタン星人生みの親で知られる飯島 敏宏、日輝ホールディングス社長の重久吉弘などがいます。

 

さらには文学方面だと、ノーベル賞候補にもなった西脇順三郎、野口米次郎(イサムノグチの父)の傑物2人、安岡章太郎をはじめとする芥川賞作家、英文学者として従四位を授与された厨川文夫、日本推理作家協会賞とミステリー文学大賞を受賞し「ミステリーの女王」こと夏樹静子、ロンドン好古家協会フェローの高宮利行、現代詩女流賞、読売文学賞を受賞した多田智満子、日本で最初にシュルレアリスム宣言を発表した上田敏雄、同じく日本で最初にコーラン原典訳を完成させたと言われる井筒俊彦、エッセイストで翻訳家の渡辺葉(椎名誠の娘)、作家として野球殿堂表彰者になった佐山 和夫、エッセイストクラブ大賞を受賞した中丸 美繪、報知新聞編集長でヴェルヌやユゴーの作品を翻訳した森田思軒、橋本左内の又甥で随筆家兼中国文学者の奥野信太郎(クラス主任が戸川秋骨のため含めた)、詩人でシュルレアリスムの理論的主柱の瀧口 修造、小説すばる新人大賞の武谷牧子、言語社会学の権威である鈴木孝夫名誉教授(医からの転部)、劇作家の加藤道夫、さらには日本文藝家協会の理事長で文芸批評の第一人者である江藤淳が挙げられます(英米3年時に「夏目漱石論」を著し批評家デビュー)

 

直近の英米就活状況

22卒: 三菱商事、PWC(複数名)、リクルート、オリエンタルランド、朝日新聞、住友商事、東宝、NTTデータ など

 

23卒: 楽天、デロイト、サイバー、アクセンチュア、日本経済新聞、東京海上日動、など

 

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まず自分が英米文学専攻を志した理由としては第一に英語が好きだったことが挙げられます。もちろんそこには英語が得意だというニュアンスも含まれていますし、自分自身、英語圏(特にアメリカ)の文化に非常に興味がありました。

 

 

 

英文学演習を担当してもらった原田範行教授には、慶應受験をクリアした程度の英語力で満足してもらっては困るんです!と喝を入れられ続けましたが、英米に来る以上、英語が読めることはまずマストです。英語ができるようになりたいという気持ちでくるような場所ではないと思います。卒論も全部英語で書かされますし、試験対策も全部英語で行うことになります。

 

目的は英語圏の歴史や、英語という言語自体を英語で研究するということなので、あくまで英語は手段の位置付けですね。実際、一年の頃上級クラスで一緒だったメンツがごっそりと集団で英米に入ってきました。

 

 

 

 

 

 

英米の雰囲気としては、厳しめ。課題の量もそうですし、遅刻なんてのも許されない風潮があります。一年の専攻説明会で井上逸平先生が英米は学校と教師に対する反抗心から生徒間の結束が高まると冗談交じりに言っていましたが、これはあながち間違いではないと思います笑。自分たちも量があまりにも膨大だったので、英米では8人くらいで常に固まって行動していました。

 

 

 

生徒は全部で60人ほど。男女比でいうと4:6で女子の方が少し多いイメージ。派手と言いいますか、それなりにオシャレに気を使ってるだろうなって人は男女問わず結構見かけます。

 

出典:『文学部の「かわいい」女の子はどの専攻にいるの?』

 

 

あと自己主張は強い人は多いです。あえて卒業が大変だと言われる専攻に第一、第二志望で来るくらいですから、何かしら芯の通った思いを胸に抱いてる人は多いです。それは英米分野に限らず、起業して大成するんだという人もいれば、株の勉強してる人もいます。大学をやめると本気で言ってる人も一人や二人ではありませんし、逆に法学部、経済学部、商学部からの転部生、わざわざ早稲田政経を2年通って中退して英米に入り直してきた人も見かけました。正直彼らに揉まれる中で、自分が胸に秘めてる思いも揺れ動き、劣等感を感じることも多々あります。

 

 

ただ一本筋の通った主張を持ってる人たちに揉まれるのもいい刺激になりますし、それだけ英米に誇りを感じてる人も多いので、他の専攻と比肩してもわざわざ英米を恥じる人もいません(後悔してる人はちらほら見ますが)。中には脱文学部宣言を主張している先生もいらっしゃいます笑。

 

 

 

 

さてここからは実際の授業やエグさについて解説していきたいと思います。

 

2年で取るべき英米の必修は5つ。(英文学史、米文学史、現代英語学、英語史、基礎購読)

なにこれ。つまんなそうーと思うかもしれませんが、一つ一つ簡単に解説していきます。

 

まず英語史

 

英語が世界共通言語になったのは言語的に優れていたから。。?いえいえ、気になるなら来年この授業を履修して自分の目で確かめることを勧めます。(教職課程にも組み込まれているので他専攻の人がたくさんいますよ!)。地球レベルで世界を覆った最初の言語は、もともとはヨーロッパでも最も卑しく言語的のも乏しい言語でした。それが戦争、国策、言語学者の並々ならない努力によりフランス語、ラテン語を出し抜いて、世界一の言語になった英語成功物語。これ自体大いにロマンスを誘うものですし、また世界言語としてアメリカ英語の地位低下、中国、インド人に英語を奪われる衝撃的な未来を示唆してくれます。血を分けた言語にも関わらず話者15億人以上の世界言語になった英語に対し、かたや50万人にしか話されないフリジア語という小言語というのだから英語史は面白い。毎週木曜午前は言語史の運命に身を委ねてみるのはいかがでしょうか。その裏には壮大な言語変化のドラマが隠されているのです。

 

 

 

英文学史・米文学史

 

文学を学んでいく上で、文学史なんて必要あるの?と思う方もいるかもしれませんが、一つの小説をとってみてもその小説が書かれた文学史的文脈に照らし合わせてみなければ、全くもってその小説を理解したことにはならないのです。

 

例えばグレートギャツビー。

 

アメリカ人が物凄く大好きな作品です。アメリカ人なら誰でも知っています。にも関わらず日本では人気がありません。果たしてあれを日本人はどう読み解くでしょう。自分のことを振った元カノを追い続ける惨めな男と見るでしょうか。いや違うのです。あれはアメリカ人の行く末・来し方を示唆している作品なのです。しかしアメリカ人でもない日本人が、何度解説を聞かされたところでグレートギャツビー単体であの本の良さを本当に理解するのは難しいでしょう。あの作品がどの時期に書かれ、どの部分に人は共感したのか。そしてあの緑の灯は意味は。ギャツビーという男は。。。グレートギャツビーの良さを知りたいならまずアメリカ文学史を学びましょう。文学史の意義というものはそういうことです。(もちろん他の意義もあるでしょうが。)

 

 

現代英語学

こちらはコミュニケーションを学ぶ授業です。担当教師は春秋通して慶應中等部校長、NHK基礎英語も担当している井上逸平先生です。これまでの必修とは異なり、歴史というものよりも現代の英語を取り巻く環境について学んでいきます。英語というのは目的でしょうか。いやいや手段ではないでしょうか。もちろん正しい英語を操ることは、英語圏で会話するときに相手の信用性の担保をするものではあります。不自然な英語を操る人よりも、正しい英語を操っている人の方が信用できますよね。ただここまで必要とされる人なんて日本人の1割もいないんじゃないでしょうか。そう、英語というのはあくまでツール。伝わればそれでいいのです。そう言った意味でコミュニケーションの観点から英語を改めて読み解いていく授業です。授業の本質を理解すれば、英語に限らず日本語にまで応用することのできる便利な学問です。

 

 

基礎購読

これは英語力の向上とする旨とする唯一の必修です。とはいえ単なる英語の授業ではなく先生の裁量で好きな文学作品を英語で読み解くというもののようで、また受験英語とは異なり統一解というものが必ずしもあるわけではありません。自分は春学期はカズオイシグロの「Never Let Me Go」、秋学期はイギリスの詩を読み解きました。一クラス10人ほどの少人数授業で、当然回転率も高いので予習は必須です。

 

 

3年次からゼミに入ります。他学部とは異なり全員がゼミに所属することができます。ちなみに自分は巽ゼミに所属することになりました。米文学史を中心に学んでいくゼミです。

 

 

コロナ直前に行われた当ゼミ(現佐藤ゼミ)の新入生歓迎飲み会

 

 

ここでは先生に指導を受けながら卒論を書き上げていきます。基本的にアメリカに関することであればなんでもオーケーなので、ディズニーに関することでも、キューブリックの映画に関することでも、マイケルジャクソンでもなんでもオーケー(だそうです。まだ厳密には入っていないので知りませんが。。)

 

因みに、2年の頃には鳴りを潜めていた文学オタというのがここで表立ってくる気がします。というのも文学について語り合う機会なんで2年の間はほとんどありません。恥ずかしながら、文学オタという人種に大学に入ってから先日のゼミの飲み会で初めて知り合ったのです。(かつて私もDオタという世界に足を踏み入れておりましたが、同じような世界が文学にも広がっていました。)もちろん、そんなのは今だって自分の周りにもいくらでもいるのでしょうが、語らう機会がないわけで、誰がどの作家が好きだとかいう情報は入ってこないわけです。

 

 

その飲み会では自分の知らない作家で盛り上がってるテーブルもあれば、隣に座った女性の先輩は酔いながらアメリカの詩人について熱く語っていました。ここで流石に本好きを公言してる身としてアメリカ文学に疎いと危機感を新たにしたわけです。まあ春休みは長い旅行に行くつもりはないのでゆっくりとアメリカ文学を読み漁ります。

 

 

ちなみにうちの巽ゼミでは毎年Panic Americanaという雑誌も刊行しています。巽先生を中心にゼミの生徒で作り上げるもので、三省堂や紀伊国屋書店、大修館の協力も得て最終的には出版業界にも出回ります。単なるゼミ雑誌と侮るべからず、過去には朝日の文芸部が完成度の高さに目を丸くし、新聞の朝刊にも載せられたこともあるんだとか。(これまでパニカメの出版に携わった作家としては蛙田アメコや、向山 貴彦がいます)

 

 

※巽ゼミは本年度より(2021年)、佐藤ゼミへと引き継がれ、ゼミ誌「パニックアメリカーナ」はweb版へと移行しました。よかったらご覧ください。

 

 

 

 

英米ってエグいの?

 

英米文学専攻に身を置くものとして後輩に一番よく聞かれる質問です。

 

先に回答すると、It depends(人による)です!!。本当に

 

確かに試験範囲は広いですし、もちろん英語で書かれた文献がほとんどです。この教科書の110ページから200ページまでが試験範囲ですといったような出題方法もなされます。

 

ただ!全てが全て英語で読む必要はありません。実は慶應にはなくとも早稲田の図書館まで足を広げれば大体の邦訳本が手に入ります。もちろん数には限りがあるのでそれをグループで共有したり、役割分担してシケタイ(試験対策プリント)を作ったりします。春は自分たちのグループで作ったシケタイを3000円くらいで販売したりしてました。

 

夜中、グルチャをつけっぱなしにしながら、コーヒー片手に徹夜で英文を読み漁るというのもそれはそれで楽しいですよ。

 

とまあそんなこんなで偉そうに英米文学について語ってきたわけですが、最後に私が進級できるのかについて触れておきましょう。

 

秋学期の結果はまだ出てないわけですが、春学期の状態からいくと進級できる確率は40%ほど。春学期が終わった時点で英米の必修も一つも単位を落とせないレベルにまで追い込まれ、しかも再履修になった中国語に関しては2年になってもやる気は湧かず全てC。ここまで偉そうに語ってきたのに、執筆者はこんなにも成績が悪いんです。。。よって秋は春よりも大分いい点を取らないと進級はできないという状況。

 

 

ただ

 

秋学期、実は結構頑張ったので、なんとかなるんじゃないのかなあとは自分では思ってます。手応え的に英米の必修はおそらく秋はフル単でしょう。中国語に関しては春が足をどの程度引っ張るかにもよりますが、秋はBくらいくるんじゃないでしょうか。平均してCからB。この程度で収まりそうな気はします。周りからはその成績で英米行くのやめとけと一年前には言われたわけですが、好きこそものの上手なれ、こんな私でもなんとか3年には進級はできそうです。(多分)

 

 

 

※英米文学専攻に関する質問、相談については下記にどうぞ。

yutarotechdev@gmail.com

 

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