先日、Youtubeのディスカバリーチャンネルで配信されてる『アーミッシュ in NY』というドキュメンタリーを見ました。アーミッシュとはキリスト教の伝統的な一派で(新興宗教ではない)、ペンシルバニアなどの都会近郊に住みつつも、スマホやテレビはもちろん、電気すら使用しない生活を営んでることで知られています。このドキュメンタリーではそんなアーミッシュ達がアーミッシュの生活に嫌気をさし、家族から破門されながらもニューヨークでの生活に馴染むまでの葛藤を描いています。
私自身、アーミッシュはもとより知っていましたが、このドキュメンタリーを見て感じたのは、アーミッシュの戒律がイメージとかけ離れているということでした。
アーミッシュの生活とは
アーミッシュにはオルドゥヌングという厳しい戒律があります。アーミッシュはペンシルバニアからオハイオ、さらにはロッキー山脈の方まで、アメリカの西から東へコミュニティを広げていきましたが、それぞれのコミュニティの戒律は異なります。(1980年代には8万人だったアーミッシュは、原始的な生活を営みながらも現在35万人に迫る勢いでなんと急拡大している)。
アーミッシュに関する番組
ちなみにアーミッシュが都会に出るまでの様を描いたという番組はこれまでも何度もあり、例えば『Amish in city』などがあります。またハリソンフォード主演の『刑事 ジョンブック』などを通してもアーミッシュの風俗を窺い知ることができます。
コミュニティによってはこのオルドゥヌングを厳格に守り、聖書以外の読書まで禁ずる厳格なオールドオーダーと呼ばれる集団もあれば、いわゆるニューオーダーと呼ばれ、現代人とかなり近い生活を営んでるコミュニティもあります。一般的にはアーミッシュといえばオールドオーダーの方を指し、ニューオーダーはアーミッシュとして計上されないことも多いようです。
アーミッシュにおいて禁じられていること
・中学校2年以降の教育の禁止
・電気の使用の禁止(蓄電池は可)
・水洗トイレの禁止
・現代人の服装の禁止
・離婚、婚前交渉の禁止
・賛美歌、聖書以外の音楽、読書の禁止
・人前でハグやキスなどの禁止
ちなみにこれら禁止事項もニューオーダーとオールドオーダーの間のどこに位置してるかによって異なります。勘違いしてはいけないのは現代文明を「悪」として排除しているのではなく、アーミッシュの伝統的なコミュニティが現代文明によって崩れないかどうかが重要であり、例えば自転車を使用していいかどうかなどはコミュニティによって意見も分かれます。ただガスの使用は認めていることが多いそうです。
言語はアメリカでありながらペンシルバニアダッチというドイツ語を用います(ダッチとついているがオランダ語ではない)。しかしながら同時に英語も学校では教えるため、難しい読み書きはできなくとも少なくとも日常会話程度なら英語で行えるパターンが多いようです。またこのペンシルバニアダッチ言語は、英語の国際的で強力な影響力にもかかわらず、先進国の中において絶滅の危機には瀕していない珍しいケースだそうです。
いかにしてアーミッシュはアメリカに渡ったか。
これが私にとっては一番疑問でしたが、どうやらペンシルバニアを建設したウィリアムペンが、あたりを開墾してくれることを期待してヨーロッパからアーミッシュを招き入れたことがきっかけのようです。元々アーミッシュはスイスのアルザスにおいてこうした伝統的な生活を営んでいましたが、各地で迫害を受け、その中で同じ平和主義者だったウィリアムペンに<自由の国>アメリカへ逃げてくることを提案されました。なお平和主義者のアーミッシュはネイティブアメリカンとも、イギリス人征服者とも良好な関係を築いていたそうです。
ちなみに1727年のフィラデルフィアにヨーロッパから到着したアドヴェンチャー号の名簿には典型的なアーミッシュの名前が見られており、このあと19世紀初頭に至るまでこうして大量のアーミッシュがアメリカに渡ってきたようです。(『アーミッシュ in NY』にも登場したメノナイトというアーミッシュに近い宗派も含む)
他方で昨今の急激な人口増加に伴い、こうした数千人の子孫からほぼ全て枝分かれしてるため近親相姦なども問題も起こっており、小人症など障害を発する確率が高くなっていることも問題視されています。(近代医学を否定するコミュニティも多いが、医学に関しては救急車を呼んだり頼りになることも多いという)。ちなみに予定説に反するという理由から保険にも入らないことでも知られています。
また2020年にはアメリカだけで新たに26のコミュニティが誕生していることが確認されており、カナダにもコミュニティがあります。ちなみにアーミッシュに近いメノナイトは日本にも入ってきており、こうした流れからさらに分化したフッタライトという一派が栃木県大田原市大輪の山中にて共同で養鶏農場を営んでるそうです。
ラムスプリンガという期間
注意して欲しいのは、『アーミッシュ in NY』で見られたような、原始的な生活を否定し都会生活を憧れるアーミッシュは少数派だということです。アーミッシュにはこれもコミュニティによりますが「ラムスプリンガ」という制度があります。これは16歳になった時に、人生で一度だけ戒律を破る自由を与えられ都会に出る期間で、この間にアーミッシュの若者はドラッグに酒に女遊びに放蕩に耽るわけですが、こうしたものを経験したアーミッシュのほとんど全てはまた戻ってくるといいます。
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『アーミッシュ in NY』 にも描かれていたように、都会では親族が誰もいないということ、義務教育も十分に受けていないため都会への生活に結局は馴染めないことも多く、結局はアーミッシュとして一生生きることが性に合ってると気づくのだそうです。
アーミッシュに対する批判
他方でこうしたアーミッシュの生活にはカルトという批判もつきまといます。例えばアーミッシュの戒律では義務教育を十分に受けることができませんが、これが合衆国憲法の自由の権利を奪っているのではないかということ。また閉ざされたコミュニティであるため、例えばレイプなどの事件があっても公にならず裁かれないということなどが批判の的になっており、実際に過去20年間で政府が把握してるアーミッシュコミュニティ内での子供の性被害は52件にも上っています。
またアーミッシュは犬の繁殖でも知られており、ブリーダーとして現代文明との接点をおおやけに持っています。しかしペンシルバニアにいる1000近くのブリーダーに関しても、認可を受けていないものが多く、動物虐待の恐れも一部では報告されています。
しかしながら絶対的な平和主義者であることには変わらず、例えば子供が交通事故で轢かれた際などは裁判所に行って弁護士を立てて訴えるということはしません。また象徴的な出来事として、2006年10月にアーミッシュの学校にて銃撃事件があった際には、13歳のアーミッシュが年下の子供をかばって殺されたのにも関わらず、アーミッシュの遺族はその犯人の家族を葬式に招いたそうです。
自身の追っ手を救ったことによって捕まり、火刑に処されたダークウィレムスはアーミッシュの英雄的存在
アーミッシュとコンタクトを取るには
アーミッシュとコンタクトを取ることは非常に難しいですが、中にはニューオーダーアーミッシュがAirbnbなどで宿泊施設を提供している場合や、アーミッシュに関する博物館などを通して実際のアーミッシュと話す機会は得られるようです。またアメリカ人向けの現地ツアーでアーミッシュが多いランカスター群を回るツアーがあったり、日本からメノナイトインフォメーションセンターを介してアーミッシュの情報が得られるという話もありました。そのほか、実際にアーミッシュとコンタクトを取っている日本人は意外と多いようですので、調べれば見つかるかもしれません。
アーミッシュの多いランカスター群でストリートビューを走らせると容易にアーミッシュが見つかる
まとめ
ディスカバリーチャンネルのドキュメンタリーによって再びやや注目を浴びたアーミッシュ。こうしたマイナーなブームは日本でも何回かありましたが、アーミッシュの方もニューオーダーが増えたりと時代の変化に伴い生活様式を変化させていっています。なかなか日本語では情報を得ることは難しいですが、アーミッシュの生活をつぶさに見てみると、現代人にとっての幸せとは一体なんなのだろうかと考えさせられます。ニューヨークから最も近いアーミッシュコミュニティまでそこまで遠くないので、私自身が今度アメリカに行く機会があったら少し訪ねてみようかと考えています。
出典:
https://www.esquire.com/jp/mensclub/a30803410/in-amish-with-the-thought-of-witness-true-witnessed
https://en.wikipedia.org/wiki/Amish
https://en.wikipedia.org/wiki/Ordnung
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5
アーミッシュ もう一つのアメリカ 菅原千代志 丸善ブックス