書評とかやったことがないんですが、ブログに書くこともないし、緊急事態宣言のおかげで今月はまあまあ沢山の本を読んだと思うので、Gates Notesを真似して書評をやってみることにしました。書いてて分かりましたが、意外と書評は書いてて楽しいものです(書評を書く前提で読めば、本の理解も深まるのかもしれない。)

 

数えてみると今月は25冊は読んでいるので、大体1日1冊くらいは読んだことになります。当然、中には読むのが苦痛だった作品もあれば、読み進めるのが惜しいような作品もあったのですが、ここでは一応全てを取り上げようと思います。

 

因みに新書と言っても一冊800円くらいはするので、自分は書店で実際に内容を見てから、その場で中古本をamazonで注文するようにしてます。amazonの評価が「良い」以上のものであれば、基本的にはBookオフよりも安くて綺麗なものが届きます(大体100円未満で買えます)。届く書籍の2/3くらいがおそらく読まずに売ったのだろうというレベルで綺麗なので、潔癖症でなければ中古で買うことをお勧めします笑。

 

amazonのリンクも貼っておきますので、レビューも参考にしてみてください。『火花』みたいに話題が先行しちゃって。。。みたいなの以外はちゃんとしたeducated reader(教養ある読者)が書いててくれてるので、僕の書評なんかよりも全然参考になります。

 

因みに自分が読む本は純文学、現代思想(割と最近)が中心です。大衆文学は基本的には読みません。新書編と文庫編で分けてみました。

 

 

 

新書編

 

世界史の針が巻き戻るとき

新進気鋭の哲学者マルクスガブリエルの作品です。お騒がせというか、哲学界隈だと話題が先行しちゃって何をやってるのかよく分からないような哲学者でもあるのですが(哲学者と認めない人も多いらしい)、個人的には彼の書いている話はとても的を射ていて、興味深いと思います。本作で扱われている実在論自体は何も目新しいことではないのですが、彼は現代を「価値」「民主主義」「資本主義」「テクノロジー」「表象」の5つの危機から、新しい実在論を提起し、このフェイクニュース溢れかえる世界における絶対的な真実とは何かを問いかけます。(トランプ支持者であるためか、p86など一部トランプの出自について事実誤認が見られます。)あわせて彼の『なぜ世界は存在しないのか』も勧めておきます。

 

 

哲学入門

哲学入門とは銘打っていはいますが、いわゆる他の入門書とは内容が少々異なります。一般的に哲学というとヘーゲルやニーチェなどが思い浮かぶと思うのですが、本書にはこれらの名前が一切出てきません。むしろ比較的新しい無名な哲学者を取り上げることによって、すごく身近にある哲学の諸問題を、ビックバンから現代の情報に至るまで通時的な観点で読み解いていきます。400ページもあり、また後半になってくるとlogなんかも出てくるので、新書だと思って手に取ると割と痛い目に遭います笑。(自由とか情報のあたりは面白かった)

 

 

寝ながら学べる構造主義

かなり有名な本です。おそらく現代文で受験を経験したことがある人は聞いたことがあるんじゃないでしょうか。自分も大学受験で手に取って以来3年ぶりに読んでみました。哲学や現代思想のザ『入門』的な立ち位置で、構造主義を中心とする現代思想を始める足掛かりとしても良いと思います。

 

 

世界がわかる比較思想史入門

この1月に読んだ作品としては最も面白かったです(なぜかamazonのレビューが少ないですが、内容が近似してる名著があったら誰か教えてください)。とりわけ第7章(現代思想)は、単にそれぞれの思想を追うのではなく、構造主義、ポスト構造主義、脱構築、実存主義の連関構造を歴史的に解説してあり、その点『寝ながら学べる構造主義』よりそれぞれの思想の存在意義や必然性というのがよりクリアに分かった気がします。また思想史を追うだけではなく、章末にその過去の思想・哲学をどう現代の世界や物事の捉え方に生かすかについての知見も併せてしたためられているので、単に観念的なものに終わらない点についても非常におすすめです。

 

 

自由の限界

読売新聞のインタビュー記事を一つにまとめた本なので、本一冊として何か一貫した主張したい事実があるわけではないです。ただ『サピエンス全史』で大いに盛名を馳せたハラリやマレーシア首相のマハティール、先程のマルクスガブリエルが独自の日本観を開陳してくれる貴重な一冊だと思います。題名からして哲学っぽいですが、内容はグローバリズムとポピュリズムとどう向き合うべきかが中心となります。(政治哲学とは言えるかもしれない。) 

 

 

 

 

 

消費社会の神話と構造

著者はあのボードリヤールです。こちらは現代思想についてのある程度の理解があると読みやすいと思います。(上記の『寝ながら学べる構造主義』くらいは読んどくと楽かも)。因みにこの本を読んで感銘を受けた堤清二が創業したのがあの無印良品です。「ものは道具ではなく記号だ!」というボードリヤールの主張が、そのままブランド名をあえて隠すという無印良品のブランド理念に繋がっています。30年前に書かれているのにいまだに色褪せない名著です。

 

 

 

論語と算盤

就活仲間に読んでおけと言われたので手に取った一冊です(今年はPythonをもう少し頑張りたいので休学するかもしれないですが。。。)孔子の『論語』自体は概して難解なものですが、それを渋沢栄一が自分なりに解釈し、そこから社会で大成するために必要なことを上手くまとめ上げてくれています。「士農工商」の序列に見られたように、経済含む金稼ぎが卑しいものとみなされていた時代に、渋沢は『論語』という一見実業とは関係ない書物を自身の価値判断の中心に据え、現状の日本を憂いました。『論語』と『算盤』という一見対に見える二つの概念をつなぎ合わせる力量にこそ、渋沢栄一の商人としての強さはあったのかもしれません。

 

 

 

 

 

実存と構造

コインの裏表をなす「実存」と「構造」という対になる概念をカミュや大江健三郎といった文学作品を通して解説していく書物です。一通り両者の概念を理解した人は読んでみるといいかもしれません。「自由になればなるほど人は不安を抱える」というテーゼに対して真っ向から取り組んでいきます。「実存という概念は人を袋小路に追い込む。しかしながら、人は構造化を試みることによって袋小路を脱し、前向きに生きることができる」という文には大いに溜飲を下げることができました。

 

 

 

批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義

この本はまずメアリーシェリーの『フランケンシュタイン』を読んでいることが前提です。フランケンシュタイン自体は僕的にはかなり完成度の高いゴシック小説だと思っていて、個人的には英米文学の中で一番面白いと思ってます。人間の欲深さ、孤独、エゴイズムなどについて、全編を通してフランケンシュタインと怪物の対決を通して描かれており、単なる幽霊譚にとどまらない厚みのある小説です。芹澤恵訳が個人的には一番オススメです。(因みにフランケンシュタインは怪物の名前ではありません)

 

さて本作は理論と技法の両方の視点から、フランケンシュタインを解説していく書物になります。前半は技巧、つまり小説の書き方を解説していき、後半は脱構築やポストコロニアルなど様々な観点から批評を試みます。文学作品の読み方がいまいち分からないという方には文学批評の最初の一冊としてもお勧めできるかと思います。

 

 

 

グローバル時代のアメリカ

岩波のアメリカシリーズの最終作です(全部で4作あります)。現代アメリカ史というと、大恐慌やニューディール、WWⅡあたりを起点に書き始めるものが多いですが、本作は1970年代という平板な印象の強い年代を起点に書き始めるという点で少し斬新です。最終作の本作では、自由主義という巨大な物語を紡ぐ超大国アメリカの衰退を、コロナウイルスのパンデミックまで含めた広い視点を以って捉え直していきます。(岩波新書にしては書き方がやや右寄りか)。かなり最近までカバーしているのは嬉しいのですが、できれば先日の議会選挙事件とバイデン当選を受けた第5巻が出てくれることを期待します。

  

 

 

教養としての大学受験国語

大学受験で出題される現代文を題材に、近代思想史を読み解いていきます(受験生の時に知りたかった!)。題名からして受験生向けのようですが、普通に近代思想の入門編としても十分読み応えのある一冊です。広く浅く教養として近代思想を学びたいという方にはお勧めします。

 

 

 

村上春樹はむずかしい

村上春樹は一貫して批判され続けた作家でもありました。デビュー作『風の歌をきけ』を芥川賞選考会にて酷評されてから、長らく文壇からは春樹文学の持つアメリカ文学性は忌避され否定され続け、村上春樹自身もその事実に心を痛めてきました。中堅になりようやく英語に翻訳されるようになると瞬く間に名声は世界的なものになり、日本の批評家たちは彼の実力を部分的にも認めざるを得なくなります。しかしながらその後の『ノルウェイの森』の爆発的なヒットを受けると、村上春樹は国内にはとどまることが出来なくなってしまうほどの批判をあらゆる方面から受けるようになり、海外に移り住むことになります。そんな人生を送る村上春樹を長い目線で追ったのが本書です。なぜ村上春樹は誤解され続けるのか?果たして文学の真価とは何か?そんな問いをテーマに本書は平易な文章で核心に迫ろうとします。

 

 

 

謎とき村上春樹

前述の『村上春樹は難しい』とはまた違う見方をした解説書です。題名にあるように、文学理論の解説というよりはストーリーの裏に隠された真意を読み解いていきます。『風の歌をきけ』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』『ノルウェイの森』の5つの作品に絞って取り上げています。個人的には『ノルウェイの森』と夏目漱石の『こころ』の関連性を指摘した部分はとても面白いと思いました。

 

 

 

 

文庫編

 

三島由紀夫 石原慎太郎 全対話

三島由紀夫と石原慎太郎に当時からこんな繋がりがあるのは知らなかった!あくまで作家としての石原慎太郎は嫌いではないのですが、当時から三島由紀夫とは深い繋がりがあったようです。年を経るにつれて、徐々に石原慎太郎が三島由紀夫に噛み付いて行くようになり、最後は決別するという流れは非常に興味深いです。最後は自決後のエピソードまで綴られていて、また違った観点で自決の真相を探ることもできるかもしれません。この本によると、三島由紀夫は晩年だいぶ弱っていたようですね。次に紹介する「文章読本」が描かれたときも弱っていたのかなあ。三島は市ヶ谷駐屯地においてクーデターを起こして自害という狂気としか思えないような死に方をしてますが、本当にそこには「滅びの美学」があったのでしょうか。僕にはまだ分かりません。

 

 

 

文章読本

小説を読むなら体系的に読み方を知っておこう!ということで手に取ったのが本書。三島由紀夫が「文章をどう読むか」、「文章をどう書くか」について綴っています。最後の方はエッセイに近くなるので、前半部分が中心となります。同時に小説読本も買ったので来月に読もうかと考えています。因みに谷崎潤一郎や川端康成も同名の作品を出しています。(谷崎が一番最初だったらしい)

 

 

 

 

風の歌を聴け

こちらは再読。芥川賞がちょうど発表されたので、まとめて過去の芥川賞作品を改めて読んでみることにしました。文量も少なく、1時間くらいで読めます。処女作ということもあり(村上本人は習作と呼んでる)、後の村上文学にもつながる初々しい文体で描かれています。まだ村上が無名だった頃の芥川賞での選評はなかなか興味深いものがあります。

 

因みに村上を酷評した大江健三郎はのちに『私は(略)、表層的なものの奥の村上さんの実力を見ぬく力を持った批評家ではありませんでした』と語っています。外国文学を模倣しつつも、その先の創造を見据えて一つの主題について書き続けるという姿勢は両者に共通しており、そこに大江は同族嫌悪的なものを感じたのかもしれません。

 

 

 

 

 

限りなく透明に近いブルー

当時の風俗を読点を打たないという彼独自の文体で描いているため色々な意味で読み進めるのが大変でした(その分読了感はあります)。群像を受賞したW村上コンビとして比べると、春樹よりも大分生々しい表現が続きます。村上龍さんが性を現状を打破する力に利用したとすると、村上春樹の方はあくまでテーマを伝えるのに必要だったのが性だった、とでも区別できるでしょうか。。。

 

 

 

 

百の夜は跳ねて

テレビでお馴染みの社会学者・古市憲寿による作品。芥川賞選評会では「いやらしい」「パクリ」と批判されてしまいましたが、普通に面白かった作品でした。綺麗にまとまっているというか、おそらくこの作家は器用なんだと思います。前作の「平成君さようなら」で批判された部分をちゃんと綺麗に手直しして、今作の『百の夜は跳ねて』を執筆し、さらに次の『奈落』ではまた芥川賞選考員に指摘された部分を丁寧に改変して執筆しています。自身の文体に自在に手を加えるというのが苦手な作家も多いので、そうした意味で古市憲寿さんはユニークな存在なんだと思います。

 

 

 

蹴りたい背中

こちらも再読です。随所に太宰リスペクトを感じます。誰かが「この作品はとても容姿端麗な女性が書けるような作品じゃない」とおっしゃられてましたが、本当にその通りです。「作品世界の狭さ」と「動機の弱さ」を指摘されてはいますが、あれほど容姿端麗な女性がどのような青春を送ったらこんな作品を20歳で描けるのでしょうか?作品のテーマにもなってる「蹴りたい」は性的欲求の現れなのか解釈の分かれるところではありますが、個人的にはpruneさんの書評が一番しっくりきました。(僕より比べ物にならないくらい素晴らしい書評です)。

 

 

火花

ピース又吉さんの作品です。売れない芸人を描いた私小説的な作品で非常にリアリティ溢れる作品です。詳しい解説は他に譲るとして、芸人や俳優が文学賞を受賞すると「出版不況の中で芥川賞も地に堕ちた」「選考員は話題性を提供するために忖度した」などと批判されがちです。しかしながら、芥川賞選考員の講評を見て分かる通りそこには忖度などはあるわけがありません。純文学というのは解釈の多様さが魅力でもあるのですが、Stanley Fishが言うようにeducated readerをきちんと定義しないとこう言うことになってしまうのかなあと。因みに自分は「火花」は近年の芥川賞の中でもトップクラスで面白いと思ってます。(amazonのレビューが両極端に割れてしまう作品はこうした作品が多い)

 

 

 

コンビニ人間

テーマ性とキャラクターがかなり分かりやすく描かれているため、純文学を普段読まない人でも楽しめる作品だと思います。変人を主人公に据えると感情移入が出来ないため難しいと言われがちですが、村田沙耶香さんは「濃度100パーセントの自己思考なんてのはあり得ず、結局人間は他人の思考の入れ物」というありふれたテーマを、身近なコンビニを舞台に見事に描き切ってます。

 

 

 

苦役列車

西村賢太さんの作品。かなり純度の高い私小説です。石原慎太郎がリアリティの高さを評価して絶賛していましたが、そうした「心身性」がとても感じられる作品です(そういった意味ではコンビニ人間とは対極の位置にあるかも)。以前、石原慎太郎さんとの対談で「自分は想像力が働かないから、自伝的な作品しか書けないんです」とおっしゃっていましたが、主人公・貫多の経歴は西村賢太そのもの。そう考えてみるとより一層私小説としての厚みが増すと思います。合わせてこちらのYoutubeの講義もおすすめしておきます。

 

 

 

菅見妄語『常識は凡人のもの』

2010年から週刊新潮に連載されてきたエッセイシリーズの8作目です。結構前から単行本は出てたのですが、文庫になるのを待ってたので大分読むのが遅くなりました。因みに藤原正彦先生は私が全ての著作を拝読してる唯一の作家でもあります(別に彼の思想に完全に同調してるわけではないのですが。。)本作は”藤原節”とも呼ばれる舌峰鋭い論調で世界情勢や日本の教育等に深く切り込んでいくもので、大体一冊につき50編ほどの短編が寄せ集められています。次回作の『失われた美風』で最終作なのが残念なのですが、これからも氏が旺盛な執筆欲を発揮してくれることをファンの一人として願っています。

 

 

 

終わりに

大体新書は2時間もあれば読み切れるので、今年一年は頑張って150-200冊あたりを目標にしていきたいです。大学図書館が再開しないのはなかなか痛手なのですが、一度読んだ本をふと読み返したりしたくなる時も多いし、まあそれはそれで良い読書体験を形作ってくれてるのかなあとも思います。実は本を読むようになったのは高校卒業後の浪人した時からで、偉そうに文学批評をしていますが、読んだ本の絶対量としてはそこまで多くないのです(特に英米文学は全然読んできてない)。前述の通り、来年度は休学するかもしれないので、そうしたら去年身につけた英語力を活かしながらも、幅広い文学に触れていきたいなぁと思います。

 

 

 

わざわざここまで読んでくださりありがとうございました。いいねがつくと励みになります(というか面白い本を教えてくれると嬉しいです)

 

 

 

 

 

Yutaro @2021 Feb